林野庁や森林総合研究所が日々様々な研究結果や活動報告をリリースしているが、ここでは令和2年3月に公表された「森林資源を活用した新たな山村活性化に向けた調査検討事業(香イノベーション専門部会)報告書」を読みこんでまとめていく。
精油ビジネスやアロマ業界に参入しようとしている人は日本の大まかな精油やアロマ市場の知識がつくのでぜひ最後まで読んでいってほしい。
この報告書は林野庁から事業委託された一般社団法人日本産天然精油連絡協議会がまとめた報告書である。
実際の報告書は、こちら
はじめに
この報告書は、以下のような内容で構成されている。
- 序章 事業概要
- 事業の背景及び目的
- 実施項目
- 香りイノベーション専門部会
- 第1章 植物精油を巡る現状
- 海外主要国における植物精油
- 我が国における植物精油
- 我が国の植物精油と海外産精油の比較
- 第2章 我が国における植物精油の生産実態 ←今回
- 植物精油の生産状況
- 植物精油の流通・販売状況
- 第3章我が国における植物精油の使用実態
- 我が国における植物精油の使用方法
- 我が国におけるアロマテラピーの概要
- アロマテラピーにおける精油
- アロマテラピー団体等における植物精油の使用状況
- アロマテラピー関係者における植物精油の使用状況
- 一般消費者の使用状況 一般消費者の使用状況
- 第4章 国産植物精油の作用、活用方法
- 植物精油の作用
- 植物精油の活用方法
- 第5章 国産植物精油の課題
- 生産者の課題
- 消費者に対する課題
- 業界としての課題
- 第6章 我が国における植物精油の今後の展望
- 森林の多様性を活かした取り組み
- 精油業界の発展に向けた取り組み
- 植物精油の新たな活用や普及に向けて
- 引用・参考文献
- 資料編 アンケート調査用紙
日本の7割を占める森林資源の材以外の活用法の模索と体系化を行うという点で画期的な資料である。
今回は第一章について簡単にまとめ、追加情報を書いていこうと思う
第2章 我が国における植物精油の生産実態
植物精油の生産状況
現状精油にはいくつかの生産方法があり、以下の表のようになっている
簡単に説明すると、
①水蒸気蒸留法
もっとも一般的な方法。材料に水蒸気をあて、水蒸気の中に成分を溶け込ませたものを、冷却することで、液体に戻し、精油や芳香蒸留水を得る。という流れで行われる。
装置としては自作も可能であるが、不純物や、採油率のことを考えると蒸留器として販売しているところから購入するほうが無難である。
家庭用の卓上における大きさから、数トン一気に蒸留できるものまで種類は様々である。
②圧搾法
主に柑橘系の精油を得る方法。柑橘の皮を圧力をかけて成分を抽出し、ろ過、遠心分離等を行うことで精油を得る。水蒸気蒸留法に比べて採油率は高いことが多いが、光毒性(柑橘系の精油が光に当たると肌に有害になる)が起こる成分が含まれることが多い。
大量生産に向く。
③有機溶媒抽出法
ローズなど花の精油等を抽出する際に用いられる。特に花の香りは水蒸気蒸留法のような100度に近い高温で熱すると劣化してしまうことが多いため、ヘキサンやエタノール等の溶剤に漬けこむことで香り成分を取り出す方法がとられる。
簡単にできるものだと無水エタノールにキンモクセイの花を漬けるなど。
④加圧・減圧蒸留法
水の沸点が気圧により変化することを利用した水蒸気蒸留法の発展的方法。
有機溶媒抽出法と同じように、温度を上げすぎると香りが変質してしまうものの蒸留に減圧蒸留が用いられる。圧力をポンプ等で下げることで、温度が低い状態でも水蒸気を発生させることが可能となり、より繊細な香りを抽出できる。
桜の花びらなどの蒸留も可能となる。
これらの精油の生産方法や、実際の機器の導入方法については長くなるため別記事で解説する。
国内精油生産者の実態調査
アロマテラピー専門誌によると国内の植物精油の生産者は100社を超えるといわれている。しかし1人で行っているところから企業として大規模に行っているところまでさまざま存在する。
今回の調査で行ったアンケートでは。83事業者に依頼し、30業者から実際の解答を得たとのこと。
①規模
精油生産者の規模としては、5人以下が50%を超えており、多くが小規模経営であると考えられる。
②事業内容
精油を生産している事業体の事業内容としては
・林業
・農業
・精油・芳香蒸留水製造
・精油加工品製造
といった内容のものが多く、複合的な事業の一部として行っていると推察される。
③生産規模
生産規模としては約7割が50㎏以下であり、売り上げも300万円以下が半分を占める一方で、年間100トン製造したり、3億円程度売り上げている会社もあることが分かった。
ここでおおよその計算をしてみよう。
精油 1本 10ml 1,500円
100本 1,000ml 15万円
5,000本 50㎏ 50,000ml 750万円
そして採油率が1%だとすると得られた精油の量の100倍原料が必要になるため、年間50キロ精油を生産するために原料を5トン調達する必要がある。
生産量、採油率、単価など変数を変えることで全然違いますが、5000本瓶詰めするだけでも工場レベルだと感じる。
原料調達にしても、スギやヒノキといった採油率も比較的高く、素材生産も多い原料は良いですが、花などは材料調達のコストが相当かかると推察される。
④生産方法・原料調達方法
国内における生産方法に関しては水蒸気蒸留法が9割を占め、それ以外の方法はほとんど見られなかった。
原料に関しては自社で調達しているところが6割超あり、他社と組んでいるところが3割程度だった。
⑤抽出について詳細(装置・水)
蒸留装置については、自社オリジナルを使用しているところとメーカーから買っているところが半分ずつという結果であった。蒸留を行っている結果、自社に合う製造装置を独自に開発する流れも多いと推察される。
水については、井戸水等が3割、水道水(ろ過の有無あり)が4割、その他2割という感じだった。
井戸等の水は年間を通して温度が安定しているため、夏場の冷却にも使用していると考えられる。
⑥生産後工程
精油生産後の瓶詰めやパッキングについては、9割が自社で行っているが、ボトルデザインは外注しているところも3割ほどある。保管については冷蔵庫や冷暗所が多い。
これらからかんがみるに、国内精油生産者の一般的なケースとしては
自社で原料調達、精油製造、パッキングをすべて行う数人規模の事業体
が大半を占めていると考えられる。
また、生産している精油や芳香蒸留水の種類についての解答は以下の表のようになっている。
報告書では、4つの事業体
・ラピアス電機株式会社 *インタビュー記事
について、見学した様子が掲載されている。
植物精油の流通・販売状況
一般的な販売の流れとしては、
生産者→卸業者→小売店→消費者
という流れだが、D2Cも発達してきている。
基本的には精油の小瓶など小規模での販売で、自社ですべて販売している事業者が4割、一部他社に頼んでいたりネットワークを組んでいるところが5割と、完全に販売と切り離されている事業者はほとんどないと推察される。
まとめ
今回は報告書の「第2章 国内における植物精油の生産実態」を読み込んでみた。
結論から言うと、基本的に国内の植物精油の生産者は小規模の事業体が半分以上を占め、調達から販売まで自社で行う。もしくは多少他社が関係するもののかかわりは持っていることが多く、こだわりを持って精油生産・販売に取り組んでいると考えられる。
参考資料
原典:令和元年度 森林資源を活用した新たな山村活性化に向けた調査検討事業(香イノベーション専門部会)報告書
序章の解説はこちら
第一章の記事はこちら
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