三重県尾鷲市がカーボンクレジットを個人に売買中。先進的なその手法と懸念について解説

脱炭素

はじめに

2023年12月8日 読売新聞でこのような記事が出ていました。

CO2 1トン8000円で買えます 付録でデジタルアート作品も

こちらの記事について、いくつかの点で気になる点があったので調査してみました。

近年話題のカーボンクレジット、二酸化炭素吸収量売買について過渡期の良い事例かと思うので、ぜひ最後までご覧ください。

実際のニュースについて

この記事は、三重県尾鷲市で、森林由来のカーボンクレジットを、企業でなく個人が購入して、その資金を尾鷲市の森林管理に利用しようという取り組みです。

2023年の8月ごろから取り組みとしてはスタートしており、2023年12月現在、クレジット1トン当たり8000円程度で販売されており、購入人数159人、量でいうと計253トン販売されているとのこと。

また、購入者はカーボンクレジットだけでなくNFT(非代替性トークン)を入手できる。

尾鷲市は、国の「J‐クレジット制度」の認定への申請を行い、3年後までに1万トンのクレジットの承認を見込んでいる。

関連するプレスリリース

デジタルアートを保有して気候変動問題を解決する『SINRA』プロジェクトを開始

こちらのプレスリリースでは、今回の尾鷲市のカーボンクレジットを個人が購入可能になったことに対するものです。

このリリースでは、

  • 今回のプロジェクトは「SINRA」という。サイト
  • 提携パートナーである尾鷲市と、「自治体によるNFTを利用したクレジットの創出」を行う世界初の試みである。
  • 今回のプロジェクトの特徴
    • 個人や小さい組織単位でも気候変動への活動ができる
    • 自然資源を有する自治体の環境価値創出をサポート
    • 企業のIR対応や環境領域での新規事業創出

といった内容が書かれています。

関連団体

  • 三重県尾鷲市:今回の主
  • 三ッ輪ホールディングス株式会社:尾鷲市のカーボンゼロシティ宣言 賛同企業。電力・ガス系のインフラ事業を主に行っており、地方創生の会社や、3D地図系の会社に出資している。カーボンクレジット計算の主と予想される。
  • 株式会社paramita:NFT関連の主。NFT発行やその他Web3関係の業務を担っていると予想される

今回の疑念ポイント

カーボンクレジット算定方法が不明瞭

今回の一番の疑念はココです。

二酸化炭素排出量の計算方法が少なくとも検索1ページ目の結果には出てこず、尾鷲市のカーボンゼロシティ宣言で賛同している企業の中にも明確にそのような業務を行っている会社は見受けられませんでした。

今回のカーボンクレジットは1トン当たり8,000円とニュースになっていましたが、森林由来のJ-クレジットの価格は10,000円~16,000円の範囲で近年推移しており、それらと比べても安くなっています。

また、記事にあるような「間伐を繰り返し、良質な木材を育てています」といういわゆる森林管理はJ‐クレジットの算定対象になったのは2023年の10月からであり、このことからも尾鷲市の取り組みは現状ボランタリークレジット(民間が独自に認定するクレジット)であり、公的な保証はないと考えられます。

記事中では今後Jクレジットへの認定を目指すとしているので、そちらの進捗が気になるところです。

参考

下層植生のシダが茂っているのが適切に管理された証という文章

記事中で、間伐が実施されている人工林は林床に光が入ることで下層植生が豊かになるため、シダが繁茂しているのはしっかりと手入れをされた森林の証というような内容がありますが、こちらにも若干の疑問符が浮かびます。

自分の業務は広葉樹がメインのため、針葉樹林の管理については皆さまに教えていただきたいのですが、

  • シダが繁茂していると実際の間伐などの業務の際には非常に障害になる
  • シダが繁茂していることで干ばつによりギャップが生まれても実生が育たず、更新されない

と感じ、シダなどの下層植生が豊富→適切に管理されているというのは乱暴だなと感じました。

CO2排出権の個人への販売を始めた三重県尾鷲市内の「みんなの森」 読売新聞記事より

今回のプロジェクト「SINRA」のHPの内容が引っかかる

HPのトップページには

三重県尾鷲市では、人工林が適切に管理されず、森が鬱蒼となって空気や水の流れが止まったまま放置されている光景が散見されていました。

この山林に手を入れ、水脈を取り戻し、土壌を再生させることを通じて空気の流れが生まれ、生物がその地に戻ってこようとしています。

こうした日本古来の人と自然との共生の姿を取り戻す活動を通じて現れた蝶を是非手に入れてください。

適切に管理された山林は空気中の温室効果ガスの吸収に寄与し、Jクレジットという環境価値が創出され、NFTに紐づきます。

https://sinra.app/jpより

という内容が書かれています。

「水の流れが止まる」という地下水脈関連のお話は、山単位で調査することは非現実的であること。

「Jクレジットという環境価値が創出され、NFTに紐づきます」が、すでにJクレジットに認定されているかのように見えること。

などから聞こえの良い文言を並べただけなのではないかという印象も持ちます。

今回の先進的ポイント

個人が森林管理に関与する新しい流れになる可能性がある。

複数の記事にもあるように、今回の取り組みは森林管理に対して個人が関わる新たな方法になる可能性があります。現状では自分が管理業務に携わる。そのような活動をしている企業に寄付する。ふるさと納税で使い道を指定するというような方法でした。

しかし今回の手法は、個人が明確なリターン、価値を得つつ森林管理にかかわれる可能性のある方法として画期的だと感じます。

現実の価値と結びついたNFT創出を行っている

仮想通貨は基本的にデジタルデータだが複製が不可能という点でデジタル空間でも唯一の価値を担保できるとしています。

しかし数年前に仮想通貨バブルがはじけたように、どちらかというと投機的な目的の強い対象である仮想通貨にいかにベースの、根拠のある価値を持たせるのかという点では、Jクレジット&自治体が発行しているという価値で担保されるNFTは類を見ないものであるため、長期的な価値を保つことができる可能性があります。

今後の展開と課題

今回読売新聞の記事に疑問を感じ、調べてみました。

尾鷲市の事例は、NFTというバズワードを用いたいがためのプロジェクトではないかという感想はあったものの、今後しっかりとJクレジットの認定を得られるのであれば、地方の森林管理、林業の課題を解決する画期的な方法の一つになると考えられます。

今後の尾鷲市と、関連企業の動向に目が離せません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました