ウバメガシは日本に自生する常緑広葉樹(照葉樹)で、高品質な備長炭の原料として利用されるほか、生態系や景観にも貢献しています。日本の文化と産業を影から支えてきた重要な樹木です。
ウバメガシの概要
ウバメガシ(姥目樫、学名:Quercus phillyraeoides)は、ブナ科コナラ属に属する常緑広葉樹です。関東以西の温暖な地域に自生し、特に沿岸部や岩場で特によく見られます。主な分布域は紀伊半島から四国の太平洋沿岸。葉や木材の特徴から、庭木や防風林、高級備長炭の原料として利用されます。
分類学的位置
- 科名:ブナ科(Fagaceae)
- 属名:コナラ属(Quercus)
- 学名:Quercus phillyraeoides
- 和名:ウバメガシ(姥目樫・馬目樫)
形態的特徴
- 樹高:5〜15メートル(環境による)
- 葉:小さく革質で楕円形、縁に鋸歯があり、裏側は灰白色で毛がある
- 花:春(4〜5月)に黄緑色の小花を咲かせる
- 果実:翌年秋に熟す小さなどんぐり(長さ1〜1.5センチメートル)
- 更新方法:萌芽力が旺盛。伐採後の萌芽が成長することで、200年更新し続けている株もあるという。株立ちしている株は基本的に過去人の手が入っている
- 木材:木材は非常に密度が高く、水に沈む。
ウバメガシの用途
1. 備長炭の原料
ウバメガシは、高品質な備長炭の原料として広く知られています。備長炭は、ウバメガシの他にアラカシなどから作られた白炭も指しますが、ウバメガシはその中でも最高品質とされ、特に紀州備長炭や土佐備長炭などでの製造に使用されます。
- 特性:硬く、燃焼時間が長く、火力が安定している
- 製造工程:ウバメガシを炭窯で炭化させる、窯外で消火することで備長炭を生産する。
2. 木材としての利用
- 耐久性:硬くて丈夫であり、通直でない場合が多く、他の木材に比べて乾きにくい。そのため主に燃料用として用いられる。
- 工芸品:カシ類独特の放射状の木目を活かして装飾品や工芸品の材料に使用されることもある。
3. 庭木や生垣
葉が密生し、樹形が美しいため、庭木や生垣として人気がある。剪定しやすく、景観植物として高い価値を持ちます。
4. 防風林や緑化
塩害や乾燥、強風に強い特性を活かし、防風林や沿岸部の緑化に利用されています。特に、海岸沿いの砂浜や崖地での植樹に適しています。
5. 生態系のサポート
ウバメガシのどんぐりは、鳥類や小型哺乳類の食料源となり、地域の生態系を支える重要な役割を果たしています。ナラ枯れの被害には比較的強く、カシナガに穿入されてもしばらくは枯れることはない。
さらに詳しく:ナラ枯れとは
ウバメガシと文化
備長炭と伝統産業
国産備長炭の原料となるウバメガシは、日本の伝統的な炭作りに欠かせない樹木です。
ウバメガシの備長炭は1500円〜2000円/kg程度の単価を持ち、主に炭火焼き料理でその特性を発揮します。現在の生産量は、土佐備長炭(高知県)が1300t/年、紀州備長炭(和歌山)が900t/年ほどです。
景観と庭園文化
日本庭園や茶庭で広く用いられ、その美しい葉と剪定のしやすさから庭師に愛されています。
神社や寺院での利用
神聖な木とされることもあり、神社や寺院の境内に植えられることがあります。長寿で丈夫な木であることから、象徴的な存在です。
おわりに
ウバメガシは、日本の産業や文化に欠かせない樹木です。特に備長炭の原料としての価値は非常に高く、地域の伝統産業を支える重要な役割を果たしています。また、防風林や庭木としても活躍し、自然と文化の双方に貢献しています。
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